仏の道を歩む者が犯してはいけない、必ず守るべき十の戒律(十重禁戒)があり、その六番目に「不説過戒(ふせつかかい)」というものがあります。
この度、戒律の研究をなさっている先生から上梓された御本を頂戴しました。そこに興味深いことが書かれてありました。戒律というと「〇〇してはいけない」という禁止令ばかりを連想しがちですが、実は「〇〇のようにするのではなく、〇〇のようにするのが適当である」といったように、適切な作法や手順も説かれていて、むしろこちらの方に力点が置かれている場合が多いとのこと。なるほど。
先の「不説過戒」、仏教の辞典をひいてみると、確かに禁止令で終わっていません。続きがありました。
他人が自分に対して悪口を言い、謗ることがあってもこれを耐え忍び、むしろ慈悲の心を起こして、相手を正しい方へ導くようにする。
はてそんな仏のような人間になれるだろうか・・・
仏教は「〇〇してはいけない」というより、「〇〇しない」という宗教です。「嘘をついてはいけません」ではなく「嘘はつかない」。誰かに言われたからそうするのではなく、自身の心の内から自発的に「自分に偽らない」と律していくことが求められているのです。そもそも戒律は、神のような絶対者からの命令ではなく、人々がより良く生きる、そして皆が平和に暮らすために、互いにこれだけは心がけとして身につけようとするものです。
「人のかげ口 愚痴いわず 他人のことは ほめなはれ」の精神で参りましょう。